Research Overview


物理学、化学、計算科学、情報科学を駆使して生命現象を解明する

 

生物は複雑で多様性が高く、そこが生物学の面白さのひとつでもあります。一方で、物理学・化学や数学が好きな人にとっては、あまりの膨大な知識の蓄積に呆然としてしまうかもしれません。しかし、複雑で多様な生命現象も物理法則などの基本原理に基づいて起こっており、物理学・化学・数学などから解き明かすことも可能です。我々は、物理学、化学、計算科学、情報科学を駆使し、分子レベルから生命現象を解明する研究に取り組んでいます

 

タンパク質は満員電車のような環境でどうやって機能を発揮するのだろう?

   

タンパク質は細胞環境など、様々な分子が周囲に存在し、それらの濃度が高い状態で効率的に機能を発揮します。このような環境は満員電車の中のようなものです。満員電車のような環境で、効率よく働くというのは難しそうに思いませんか?このような環境で、タンパク質はどうやって決まった働きを発揮できるのでしょうか。


異方性が高いタンパク質の構造変化

Isotropic motion    

我々は、タンパク質の形がどのように時間とともにどのように変化しているのかを、原子解像度のコンピュータシミュレーションで調べ、あるきまった形の変化が起きやすいことを突き止めました。このことは、ある特定の方向に形が変わりやすいという意味で「異方性」が高いと言います。これまでのたくさんの研究結果から、構造変化の高い異方性は、天然蛋白質に共通する性質だと考えられています。


天然タンパク質の内部はぎっちり詰まっている

packing    

タンパク質は様々なアミノ酸が不規則につながっているように見えますが、天然のタンパク質は内部が密に詰まったコンパクトな形をしています。しかし、アミノ酸をランダムに並べてタンパク質を作っても天然タンパク質のようなものはできません。どうやら、決まった機能を発揮するためには、このようにきっちりとした形をもつタンパク質が進化の過程で選ばれてきたようです。


タンパク質の典型的な構造変化

Typical Motion    

タンパク質はみ内部が密に詰まっているので、コンパクトな構造単位であるドメインがかたまりのように動くドメイン運動や、外部に突き出たループと呼ばれる部位がパタパタ動くフラップ運動が典型的な大きな構造変化です。このように特定の変形をしやすいことが、つまり「異方性が高いこと」と等価です。


自然は刺激に対して元々柔らかい方向に変形する

packing    

揺動散逸定理によると、弱い刺激を受けたとき、自然はもともと柔らかい方向(揺らぎやすい方向)に変化することが分かっています。つまり、タンパク質はノイズのような様々な相互作用を周りから受けたとしても、もともと変形しやすい方向に構造変化することが分かります。これは刺激に対して、いつも同じ応答をすることにつながります。つまり、様々な刺激のある、ノイズの多い細胞内環境の中でも、タンパク質は常に同じ応答をおこない、同じ機能を発揮するができます。しかし、機能がノイズで勝手にオン・オフを繰り返しては困ります。


タンパク質にとってはフラストレーションが大事!?

packing    

フラストレーションとは同時にはみなされない複数の条件があるときに発生します。普通はフラストレーションというと悪いことのように思います。様々な種類の相互作用があるタンパク質のような大きな分子や、たくさんの分子が存在する場合には、エネルギー的なフラストレーションが発生します。エネルギーの値が近いが、構造が異なる状態が複数存在します。自然は自由エネルギーがより小さい状態を取ろうとしますが、刺激を受けた場合(例えば、他の分子と結合した場合)には、他の状態に簡単にスイッチすることができます。フラストレーションがなければ、1つの状態が安定で、機能を制御することができません。機能がオンの状態とオフの状態を簡単に行き来することができるのは、フラストレーションがあるからです。タンパク質が機能するためにフラストレーションは重要です。


フラストレーションと異方的な構造変化がタンパク質機能のカギ

   

つまり、タンパク質は異方的に構造変化するから、特定の機能を発揮し、フラストレーションによって機能のオン・オフを制御できることが分かります。


分子シミュレーションで生体分子が働く過程を原子レベルで観察する

packing    

分子シミュレーションを用いることで生体分子が働く過程を原子レベルで観察することができます。例えば、分子動力学法を用いると、1原子単位で分子がどのように時間変化していくかを明らかにすることができます。


研究テーマ1 生体分子が機能を発揮する仕組みを明らかにする

gp5    

分子動力学法などの分子シミュレーションを用いて生体分子システムが機能を発揮する過程をコンピュータ上に再現し、その仕組みを原子レベルで明らかにします。

   
   

研究テーマ2 生体分子が離合集散する仕組みを明らかにする

  Docking    

生体内では、様々な分子が出会って複合体を形成し機能を発揮します。また複合体が解消することで次の反応が起こります。このような過程の詳細はまだほとんどわかっていません。大規模なシミュレーションなどによって生体分子が離合集散する仕組みを明らかにします。

   
   

研究テーマ3 シミュレーションをより正確に効率的に行う方法を開発する

  PaCS-MD    

最新のコンピュータを駆使してシミュレーションを行うことで、これまでわからなかった生命現象が原子解像度で明らかになります。そのために新しいコンピュータに適した、より優れた計算法を開発します。特にポスト「京」コンピュータに適した超並列計算を行うことが現在の大きな課題です。